ひょっとしたらあなたは、民泊について知りたいと思っているけど、調べ始めてみたら民泊にも色々あるみたいでちょっと分かりにくいと感じていませんか?
「民泊」という言葉は数年前から一般的になりました。
なんとなくビジネスチャンスっぽいイメージがあり、稼働していない不動産などがある場合は気になる存在かもしれません。
現在の日本はオリンピックを控えて外国人観光客を増やそうというスタンスを取っているのはご存知でしょう。
しかし、現状のホテルや旅館で数的にまかないきれないだろうという判断からも民泊は期待されているのです。
では、ここで「よし、民泊を始めよう!」と思っている人には大変に申し訳ないのですが、実際に始めるまでにはやはりいろいろと理解しなければならないことがあるのです。
後述しますが民泊は、旅館やホテルなど今ある宿泊施設とのバランスや、公衆衛生・安全の確保、地域住民とのトラブル防止などの、すでに問題となってしまっているさまざまなことに注意を払って制度がつくられています。
例えば、すでに旅館を営業している人は、過去の法律の制度上、厳しい要件をクリアーするべく様々な設備を設けて多額の先行投資をしているのです。
ところが民泊は新しい法律によって多額の設備投資をすることなく営業を始めることができます。
これではすでに営業をしている人からすれば不公平感を持ってしまいますし、業界の反発は仕方がないこととも言えますね。
国としては、新興勢力と既存勢力のどちらにも気を使わなくてはなりません。
その結果システムが複雑化するのです。
このように民泊は色々な要素が詰め込まれていて、少々わかりにくく感じてしまうこともあると思います。
さらに、複数の法律の法改正が進んでいる最中ですので、一番新しい解説を読む必要があります。
気が重くなりそうですがご安心ください。実際には押さえるべきポイントはさほど多くはありません。
この記事では、2018年6月に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)で区別されている、民泊のタイプでも必ず押さえておきたい
「家主居住型」と「家主不在型」
について解説していきたいと思います。
⇒住宅宿泊事業者の届出|最初に読んで欲しい民泊の始め方
私は静岡県を中心に許認可を中心とした行政書士事務所を運営して、民泊に関する様々なご質問・相談を受けています。
多数の質問がある中で、煎じ詰めれば数個の質問に集約されると感じていて、今回ご紹介することはそのうちの一つです。
長い記事ではありますが、少し読み進めていただければ本物の情報だということがわかっていただけると思います。
これから民泊を始めたいというはっきりとした目的がある方にはもちろん、ぼんやりと民泊のことを知りたいと思っている方にも強くお勧めします。
ぜひ最後までお付き合いください。
民泊新法での2つの区別
民泊は、もともとのホテルや旅館などの宿泊施設に追加する形で生まれた形態です。
それまでは旅館業法という法律が根拠になっていたのですが、旅館業法は歴史のある法律なので、どうしても現状の急激に変化する経済に対応しきれないという意見が根強かったのです。
そこで生まれたのが住宅宿泊事業法(ここではわかりやすく民泊新法と呼ぶことにします)という法律です。
2018年6月から始まる民泊新法では、ざっくりと新しく2つのタイプを導入することにしました。
簡単に言うと、家主がその施設に住んでいるか、住んでいないかで区別を行います。
これを家主居住型と家主不在型と呼びます。
→あなたもできる!民泊新法でオーナーを始めるための届出書の書き方①
民泊新法の基本
本題に入る前に、やや遠回りですがここで民泊の全体像を見てみましょう。
民泊と一言でいっても、現在主なものでは
- 旅館業法上の営業許可をとった民泊
- 経済特区の民泊
- 民泊新法による民泊
と、3つの種類があります。
それぞれに特徴があり、始めるための条件も違います。
ここが民泊をわかりにくくしている部分でもあるのですが、違いをつけることで全体として調和を取ろうとしているのです。
ここではまず、家主居住型と家主不在型の話に入る前に、予備知識として”民泊新法”で予定されている基本的な枠組みについてサラッと解説しておきます。
⇒民泊新法パーフェクトガイド|民泊新法をわかりやすく解説!
民泊新法による民泊施設は、「届出住宅」
民泊を運営します、と行政に届出た住宅は「届出住宅」として分類されます。そのまんまですね。
届出住宅とは何かというと、普通の住宅から切り離された新しい考え方です。
普通の住宅と何が違うかというと、「届出住宅」は消防法施行令上、防火対象物として分類されます。
簡単に言うと、消防の関係では届出住宅となった住宅は、ホテルや旅館と同じ防火設備を備えなければならない建物ということになります。
防火対象物になることで必要になる防火設備とは、例えば煙探知機やスプリンクラーなどの一般的な商業施設で見かける設備をイメージしてください。
宿泊させることのできる日数の上限は180
民泊を運営しているその部屋・建物は宿泊施設ともいえますが、形としては住宅扱いです。
住宅扱いというのは、宿泊事業を本業とするホテルや旅館とは(上記の消防の関係では同類とされながらも、他の法律上では)違う立場ということです。
既存のホテルや旅館は、古くから旅館業法に定められたことを守り、何百万円も何千万円もかけて設備を整えてこれまでやってきたのです。言うなれば宿泊施設のプロです。
彼らから言わせれば、住宅扱いの民泊は大変失礼な言い方ですが、例えて言うならアマチュアに毛が生えたようなものかもしれません。
当たり前ですが、そのためだれでも簡単に始められる民泊にお客さんをとられてしまってはたまらないと言う思いが根強くあるのです。
実際にホテル、旅館団体は民泊に賛成の立場を取っていません。
しかし海外からの観光客を呼び込みたい政府としては、宿泊施設を増やしたい思いがあるので両者が排他的な関係になっては困ります。
そのことを考慮した上で調整したのが、この180日制限です。
180日といえば1年の約半分ですよね。
例えば誰も思いつかないような素晴らしい民泊施設を作ることができたとしましょう。
予約の途切れ目なく1年の前半をうまく運営できた場合でも、この180日制限により残りの半分は民泊として営業できません。
そのため後半の半年はその施設・ノウハウを生かせず、やりたくても自粛しないといけないという事態とになってしまうのです。
最大で180日まで営業できるという法律上の決まりです。各自治体によっては、条例で営業できる日数をもっと減らしたり、曜日を制限したり、営業できる地区を制限しているところもあります。
民泊を始めようとするときには事前にお住まいの地域の役所へご確認をお願いします。
宿泊日数の制限は無し
民泊新法には上記の180日制限がある代わりに、特区民泊にある宿泊日数の制限(最低2泊3日以上の宿泊でなければダメという制限)はありません。
特区民泊は宿泊事業を始めるハードルを下げる代わりに宿泊日数の制限などがあります。
これももちろん既存の旅館業者などの反発を考慮しての制度設計です。
民泊新法での民泊は、1泊のお客さんを180日まで受け入れることが可能なのです。
民泊の部屋、建物はあくまで住宅扱い
いままでの民泊は、旅館業法上の”簡易宿所営業”という枠にやや無理矢理当てはめていたという部分があります。
しかし、旅館業法上の許可までは必要ないのではないかという規制緩和の動きの中から民泊新法は成立したという経緯があります。
ところで、これは私の個人的な考えですが、今考えてみると、逆に特区民泊や民泊新法と比べれば簡易宿所営業はメリットも多くこれはこれで良い方向性をうちだしているとおもうのですが、何はともあれ規制緩和で民泊新法は成立したのです。
細かい要件はほかのページに記載しますが、要するに宿泊施設よりもぐっと参入障壁を低くした旅館ビジネスを可能にするのが民泊新法なのです。
民泊の許可|簡易宿所営業の許可をとりたい方へ。流れをザックリ説明!に詳しい記載があります。ご参考ください。
民泊新法は正式名称を住宅宿泊事業法といいますが、その名の通り、「民泊は住宅に人を泊める事業」として定められました。
いままで宿泊施設にしかお金を取って人を泊めてはいけなかったという法律から飛び出し、新しく制定されたのです。
以上、長くなりましたが、それではようやく家主居住型と家主不在型の説明に入っていきます。
家主居住型
アットホームなイメージの家主居住型民泊(イメージ)
家主居住型とは住宅提供者がその住宅に住んでいながら、住宅の一部を利用者に貸し出すことをいいます。ホームステイ型ともいわれます。
また、家主はホストと呼ばれますので、「ホスト居住型」といったらこのことだと思ってください。
日本ではなじみがありませんが、海外のB&Bなどはリタイアしたひとが始めるビジネスとしても一般的です。
向く人は異文化コミュニケーションを楽しみたい人
家主居住型はホームステイ型の名前で想像できるとおりと考えましょう。
宿泊者を自宅に招き入れ、コミュニケーションを取って楽しみたいという方に一番向いている方法でしょう。
もちろん家の中でのプライベートなスペースはきちんと確保する必要があります。
また、お客さんを受け入れるという性質上、プライベートな時間も少なくなりますが、事前にしっかり考えた上で始めることは大切です。
ビジネスにはやや向かない
180日の制限があるので、残念ながら家主居住型はビジネスとしてガッツリ稼ぎたいという人には向きません。
もちろん誰もやったことがないような素晴らしいアイデアがあればビジネスとして成り立つ余地はあると思いますが、それであったとしても一年の半分は休眠するビジネスなのです。
それならばそのアイデアをもとに、最初にコストを掛けて簡易宿所営業の許可をとって行ったほうがもっと儲かる可能性があるといえます。
私個人としてはビジネス云々は置いておいて、ゲストとしてこういうコミニケーションを楽しもうとするホストのところに泊まるのが、民泊の醍醐味だと思っています。
⇒規制緩和が進んで開業がおすすめです!農家民宿のはじめ方
管理について
新法による民泊は、基本的にはその住宅の維持保全管理を管理業者に委託することになっています。
しかし、家主居住型の場合は家主がみずから管理をすれば、わざわざ委託はしなくても良いとされています。
自分で管理するということになれば、大変な面がある反面、コストは掛かりません。
また、大変と言ってしまいましたが、これは人それぞれの感覚でしょう。
もともと家主居住型で民泊を始めようとする人はおそらく性格的にマメであり、お世話好きな下地があったりして、日々の管理も大変とは思わずサクサクできるのかもしれません。
また、近隣住民からすれば、民泊利用者のマナーについては家主がある程度ケアをしてくれることを期待できます。
したがってトラブルや不安が発生する危険性は後述する家主不在型よりは少ないだろうと考えられています。
しかし民泊新法施行前である現在では、家主居住型は少なく、ほとんどが家主不在型だと言われています。
日本では宿泊施設に家主が大きく入り込むビジネススタイルには抵抗があるのでしょう。
届出のみで始められる
2018年6月に民泊新法が施行されることにより、家主居住型では、家主は届出のみで民泊を始められるようになりますので、今後注目されるスタイルになると思われます。
届出のみというのは大変にラクです。必要な書類を不備なく書いて、行政に対して提出すればそれで手続完了です。
許可のように必要要件をひとつひとつ満たして提出して、それでいいかどうか判断を仰いだりする必要が無いのです。
ここが一番民泊新法で緩和された部分です。
最大のメリット!宿泊室が50㎡以下では住宅として扱われる
また、家主居住型ではもう一つ大きなメリットがあります。
宿泊者が眠る部屋を宿泊室といいますが、家主居住型で宿泊室が50㎡以下である場合はこの民泊施設は届出住宅ではなく、住宅として取り扱われます。
住宅であれば先ほど説明した防火対象物ではないので、ホテルや旅館並みの防火設備がいらないということになります。
これは家主居住型の非常に大きなメリットです。
通常、これから民泊を始めようとする人にとって障壁となるのは消防関係の設備のためのリフォームです。
ここでかなりのお金と時間と労力をつぎ込むことになるのですが、住宅扱いであればこれらにかかる手間暇お金がとても少なくなり、民泊開業へのハードルが一気に下がります。
家主不在型
ファミリー向けにも人気の家主不在型民泊(イメージ)
つづいてもう一つのタイプ家主不在型です。
家主不在型とは、住宅提供者がその住宅に同居せず、ゲストの貸し切りとなるタイプの民泊です。ホスト不在型とも呼ばれます。
運営方法としては長期の出張やバカンスで家を空けている間を利用して民泊ビジネスをしよう、というような事が考えられます。
しかし、家主がいない家に不特定多数の人が泊まるとなると、やはり騒音やゴミ出し等の近隣住民とのトラブルや、宿泊施設の悪用、犯罪の温床化といった危険性が高まってしまいます。
さらにこうしたトラブルが発生してしまったときには、家主が不在ですから、誰に苦情を言ったらいいのか近隣住民には分かりにくいでしょう。
こうしたトラブルは、近年横行しているヤミ民泊により発生しています。
戦略特区に指定されていない場所で、旅館業法の許可も無い状態で営業している民泊です。
以前はグレーゾーンとされていましたが、今でははっきり違法となっています。
違法行為ではあるのですが、いまやヤミ民泊も競争社会ですので、意外と質は高かったりもするようです。
しかし、一部の金儲け主義に走っている人もいることも事実で、そういう人は「やるだけやって、まずくなったら手を引けばいいだろう」というような運営態度が根底にあります。
そうなると管理もアバウトで、トラブルが多く発生する原因となり、問題視されています。
⇒ヤミ民泊のトラブルと旅館業法の営業許可について知っておこう。
届出と住宅宿泊管理者への委託が必要
そこで家主不在型の民泊では、住宅提供者が住宅宿泊管理業者に管理を委託することが必要とされます。
ただし、家主が住宅宿泊管理業の届出をしていて、登録を受けていれば自宅で家主不在型の民泊を提供することができます。
⇒あなたもできる!住宅宿泊管理業者の登録申請書類の書き方
向く人は空き家を少しでもナントカしたい人
先程、家主不在型のビジネスモデルは長期出張で家を空けたり、バカンスに行くことが多い人が考えられると紹介しました。
これらのケースでは不動産があるのにそれを利用せずにいるのです。
うらやましいような気もしますが、家主不在型の民泊に一番向くのはこれらの”空き家を所有しているけど放置状態”という人でしょう。
家・建物は、人の手が入らないとどんどん古くなって朽ちていってしまいます。
その点、管理者が入って時々でもいいから水回りを使ったり、空気を入れ替えたりすれば、空き家はそれ以上の退廃はなくなり、状態を維持することができるでしょう。
ファミリー向けの物件に
宿泊するお客さんの中には、ファミリーやある程度の人数で行動している人たちがいます。
こういう人たちには一軒家まるまるの貸出はとても受けがいいようです。
この場合、築年数がある程度経っていてもきれいにしてあれば全く問題ありません。
旅行者の本音には「宿泊する施設のランクは落としてでも安く泊めてよ」というものもあります。
最新のモデルルームのような家に泊まってみたいという人ばかりなわけではないのです。
ビジネスには向かない
しかしながら、上記の180日制限がかかる上に、管理者に払うコストもかかってきますから、ビジネスとしての収益は期待はできません。
管理業者への委託費用がかかりますので家主居住型よりもさらに収益率は低くなってしまいます。
以上の理由から投資用のマンションの一室を貸し出すというのは向きません。
家主不在型は都会的なイメージが強く、自らの時間を割くこともないためビジネスとして面白みがあると思う人もいるかもしれません。
ところがそんな簡単にいかないように法律で営業日数の規制があるのです。
一年間の半分を休眠させるのはビジネスとしては致命的でしょう。
ここはひとつ、お金の面は割り切って目をつむり、空き家の維持管理を目的としてはいかがでしょうか。
住宅宿泊管理者の仕事
家主居住型での住宅提供者は次の仕事をする必要があります。
また、家主不在型の場合は住宅宿泊管理業者にこれらの仕事を委託しなければいけません。
- 居室の床面積に応じた宿泊者数の制限や定期的な清掃
- 非常用照明器具の設置、避難経路の表示、災害時の宿泊者の安全の確保
- 外国人観光客への外国語での案内、説明、情報提供、快適性、利便性の確保
- 宿泊者名簿の備え付け、周辺地域への悪影響の防止に関する説明
- 苦情、問い合わせへの迅速な対応
- 見やすい場所に標識を掲げる
これらの仕事がきちんとされることで、安全で清潔な施設を維持し、匿名性が排除されて、利用者と近隣住民が安心して暮らすことができるようになるのです。
「空いている不動産を利用してビジネスをやるけど、お客さえ泊めればあとは知ったこっちゃない」なんてのはだめです。
民泊事業は新しいビジネスモデルですから世間の注目度も高く、ずさんな営業をすればあっという間に知れ渡ることで社会的制裁を受けるのがオチではないでしょうか。
まとめ
いかがでしょうか。
2018年6月施行の民泊新法では現在の旅館業法上の許可を取るよりも簡単に民泊を始めることができるようになります。
その際に導入されるのが家主居住型と家主不在型という2つのタイプがあり、
家主居住型は
- 50㎡以下であれば住宅として扱われる
- 届出だけで始められる
- 自分で管理をすれば業者を頼まなくても良い
というメリットがあります。
一方、家主不在型は
- 1軒まるごと貸出に向く
- 業者に管理を任せて安心
- 空き家の有効活用
ということがメリットです。
繰り返しになりますが民泊新法は各自治体の条例により、条件がかなり違う場合もあります。
まだ決まっていないところも今後徐々に明らかになってくるはずですので、あわてずじっくり検討されることをおすすめします。