規制緩和が進んで開業がおすすめです!農家民宿のはじめ方

グリーンツーリズムって聞いたことがありますか?

農山漁村などの田舎に長く滞在して、農業や漁業の体験やその地域でしか味わえない文化や自然の中で、地元の人々との交流を楽しむ事を目的とした旅のことです。

現在、身近なところではインターネットや、ヴァーチャル・リアリティなどをはじめ、未来の技術がすごい早さで開発されて、ちょっと前では考えることもできなかったような体験ができるようになりました。

それは本当にワクワクして、すばらしいことだと思います。この先数年後はネットをつかって何ができるようになって、どうなっているかなんて誰も想像ができませんよね。

一方、毎日そういう最先端技術にまみれて疲れている人がいることも事実です。
また、疲れていなくても無いものねだりというのはありますよね。

例えばのイメージですが、田舎の学生が都会にあこがれるように、都会でバリバリ働くビジネスマンや若者が地方に行って、「ただただひたすら田舎でノンビリとしたい」と考えているというのもよくある話です。

そんな都会の人(都会の人だけには限りませんが)を招いて地域の良さを味わってもらうには宿泊施設が必要になります。これに必要な宿が農家民泊や農家民宿というものです。

この宿を開業して地域を活性化したい!副収入につなげたい!という農家の方のニーズも増えてきています。また、旅館業法の規制緩和や、外国人旅行客の増加により、大変な追い風が吹いています。

開業の許可までには一定のハードルを超える必要がありますが、そもそも何を越えていけばいいのでしょうか。この記事では農家民宿(正式名称:農林漁家民宿)の始め方についてくわしく解説していきます。

 

目次

なぜ開業したいかを一度明確にしよう

開業する目的は皆さんそれぞれあると思います。農家民宿を始めるからには大変なこともあると思いますが、目標があればきっと頑張れるはずです。いま一度、達成したい目標を確認するのは大事なことですね。

たとえば…

  • 人と話すことが好き
  • わたしの美味しい料理を食べて欲しい
  • 多趣味なお父さんの特技をこのままにしておくにはもったいない
  • 空いている部屋を活用したい
  • 副収入につなげたい
  • なんとか地域活性化をしたい
  • 仲のいい仲間と何かを始めたい

などなど、他にもあると思います。同じ思いをもつ地域の人と協力連携できればさらに心強いものになりますね。

その目的によってどんな風に運営していくのかを考えましょう。

 

経営について考えよう

まず前提として家族全員が同意していることが必要です。誰か一人でも反対していたらまず、よく話し合いましょう。やっていこう!という同じ気持ちを持てるまでよく話しましょう。

何でもかんでもやろうとすると本業の農業や、もともとの生活自体を圧迫してギスギスすることになりかねません。まずは無理のない範囲で計画していきましょう。

家族内の役割分担

お客さんをもてなす以外にも宿として回していくには様々な仕事があります。分担して責任者も決めておきましょう。

  • お父さんは体験の指導?
  • お母さんは食事の用意?
  • 部屋の掃除は?
  • 宿泊者の送り迎えは?
  • 予約の管理・宿泊してくれた人への案内レターは?

などなど。

営業時間

本業のことも考えて、宿としての営業の時期を決めなければいけません。

  • 一年を通じてやるのか
  • ウィークデーまたは土日だけ
  • 夏休み・冬休みだけ
  • 修学旅行生をメインとして受け入れ…など。

 

提供サービスの内容は?

食事について

素泊まり/朝食のみ/朝夕食付き/バーベキュー等の自炊/など、どのスタイルで行くかを決めましょう。

素泊まりのみの場合は近隣の食堂などと提携しておいたほうがいいでしょう。旅行での食事は一番の楽しみと言ってもいいものです。ここはよく考えましょう。

食事の提供をする場合は飲食店営業許可が必要になります。

 

体験メニューについて

食事もそうですが、宿泊者はこの農業体験をメインとして訪れてきます。そう考えるとこの体験メニューは大変にチカラの入るところですが、気負わず、できるものをリストアップすれば良いと思います。

例えばあなたが実施しようとするメニューにおいて、
「誰からも尊敬されるほどの地域一番の名人でなければならない」なんてことはありません。
宿泊者からすれば訪れた地域のありのままが、もう既に非日常体験なのです。

あなたの普段の作業を手伝ってもらう、というようなものでも充分チャレンジ・想い出・体験になるのではないでしょうか。もちろん、飽きさせないための段取りや、これにまつわるエピソードを織り交ぜるなど、楽しんでもらえるような工夫をすることは大事ですね。

例えばこんなメニューが考えられます。

春・夏

  • 田植え、夏野菜づくり、梅の収穫、魚釣り、魚のつかみ取り
  • 山菜採り、お茶摘み、梅干し作り、梅ジュースづくり
  • 里山散策、川遊び、星空観察、クワガタ獲り

秋・冬

  • 稲刈り、芋掘り、みかん収穫
  • 栗拾い、焼き芋、干し柿作り、餅つき、味噌づくり
  • 紅葉狩り、きのこ狩り、雪遊び

酪農体験

  • 牛の乳搾り、卵の採集、乗馬、餌やり

自作体験

  • 竹とんぼづくり、竹馬づくり、コマづくり、草木染め

以上のように、農業体験だけに限りません。季節や人数、天候によってお客さんに対応できる体験プログラムが用意できるといいでしょう。

 

自己診断チェック

その他、開業するまでにはチェックするべき事があります。

ザックリでいいので、下リンク先にある表を見て各項目をチェックしてみましょう。これは全て◯がつかなければ開業ができない、というようなものではありません。あくまで自己診断です。これを実施することで決意が固まってくるのではないでしょうか。

静岡県農家民宿自己診断チェックシート

 

相談しよう

開業に向けて市町村、都道府県の役場などに申請する手続が必要になってきます。

申請は保健所、市町村役場、消防署など、複数の機関にいくことになります。また、このような手続きに慣れていない方がほとんだと思います。

最終的に役所には何度か通うことになる事が多いかと思いますが、事前の相談をしておくことで、随分効率よく行くはずです。

そのために各都道府県で出している農家民宿開業に向けたチェックシートに記入して持参しましょう。

また、建物の簡単な見取り図と各部屋の様子がわかる写真があると話がスムーズですので準備していきましょう。まずは保健所に事前相談にいきましょう。

もちものまとめ

  1. 開業チェックシート
  2. 農業者であることの証明書(農業委員会で申請します)
  3. 建物の図面(簡単なものでOK)
  4. 写真(建物全景、建物周辺、各部屋)

開業チェックシート(PDF)

 

許可申請

農家民宿の開業をするのに必要な許可とは、旅館業の許可です。

旅館業の許可にもいくつか種類がありますが、農家民宿の場合は旅館業法が定める「簡易宿所(かんいしゅくしょ)営業」の許可が必要になります。

 

規制緩和の概要

冒頭にも申し上げましたが、農家民宿について、規制緩和が段階的に進んできました。ざっと目を通してください。通常の民泊と比べてこれだけ優遇されています。

◯面積要件の撤廃(平成15年)
33㎡以上の客室面積が必要だった
→33㎡未満でも可能に。

◯送迎輸送を道路運送法の対象外に(平成15年、23年)
宿泊者の送迎が白タク営業にあたっていた
→宿泊サービスの一環なので問題ない

◯農業体験サービスを旅行業法の対象外に(平成15年)
体験ツアーの販売広告が旅行業法に抵触するとされた
→旅行業法に抵触しない

◯消防設備設置基準の柔軟な対応(平成16年、19年)
通常の民宿と同じ消防設備義務があった
→地元の消防長の判断によって誘導灯や誘導標識を設置しなくても良い

◯建築基準法上の取り扱い(平成17年)
農家民宿も旅館としての基準
→小規模で避難上支障がなければ建築基準法上旅館に該当しない

◯登録の対象範囲拡大
農家民宿をできるのは農林漁業者またはその組織する団体のみ
→農林漁業者またはその組織する団体以外のものが運営できるように拡大

◯農家民宿等によるにごり酒の製造事業の特区(どぶろく特区)(平性15年)
製造量が6キロリットルなければにごり酒の製造免許がとれない
→農家民宿を営む農業者が自ら生産した米を原料とする場合は6キロリットルなくても良い

◯食品衛生法に関する条例改正を要請
飲食物を提供する場合の飲食店営業の許可は通常の許可基準
→農家民宿の場合は基準の緩和の方向に条例改正や弾力的な運用をするよう厚生労働省が要請

 

県独自の規制緩和の例(静岡県)

  1. 一度に提供する食事の提供範囲を宿泊者に限り、9食以下であれば、食品営業許可の基準緩和
  2. 調理室は家庭用台所と共用することができる
  3. 衛生上支障がなければ調理室と住居、客室との区画はカウンター、アコーディオンカーテンなどでの区分でよい
  4. 清掃しやすい構造であれば内壁、床の材質を問わない
  5. 調理室の洗浄設備は1槽でよい
  6. 手洗い設備は洗浄設備と兼用でよい

 

農家民宿開業に関係する法律と手続き

農家民宿を開業するには次の法律が関係しますので、それぞれの基準を満たす必要があります。

ここでは静岡県の場合を例に説明していきます。

1,旅館業法

旅館業法第3条の簡易宿所営業許可が必要です。

静岡県の場合、ほぼそのままの住宅で営業許可が得られる場合もありますが、個別のケースで検討が必要ですので、必ず保健所に相談しましょう。

主な構造設備

  • お風呂:宿泊者の需要を満たすことができる適当な入浴設備
  • 洗面所:宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備
  • トイレ:適当な数のトイレ
  • その他:適当な換気、採光、照明、防湿および排水設備
  • 玄関などにお客様と面接するための適当な設備

定員5人以下であればお風呂、洗面所、トイレを既存の施設を家族と共用できます。

定員6人以上9人以下の場合、お風呂とトイレは宿泊者専用のものが必要。ただし、お風呂は近くに銭湯などの入浴施設がある場合は不要です。

手続き

相談窓口は保健所です。

旅館業法許可申請

手数料 22000円

必要書類

  1. 旅館業許可申請書
  2. 水道水使用証明書または水質検査成績書
  3. 図面(地図、配置図、各階平面図)
  4. 法人の場合 定款
  5. 循環ろ過装置等を設置する場合 その概要書
  6. 衛生管理に係る計画書
  7. 農林漁家民宿確認書写し
  8. 建築確認通知書の写し
  9. 建築物検査済証の写し
  10. 消防法令適合証明書

準備する書類は多いですが、個別のケースで必要ないものもあります。

 

 

 

2,食品衛生法

食事の提供を行う場合は飲食店営業の許可が必要です。

飲食店営業の許可を取得した場合、調理室へは従業者以外は立ち入ることができなくなります。
そのため、料理室を使ってお客様と共同で料理作りの体験を行うことができませんので注意しましょう。

 

主な営業施設基準

  • 調理室:調理室は住居、客室等と区画されていること。
  • 内壁:隙間なく清掃しやすい構造であること
  • 床:清掃しやすい構造であること
  • 天井:隙間がなく清掃しやすい構造であること

[設備]

  • 手洗い設備:流水式洗浄設備と兼用できる。手指消毒装置を設置すること
  • 洗浄設備:流水式洗浄設備が1槽以上あること
  • 殺菌設備:ガスレンジや給湯設備などで殺菌できること
  • 温度付き冷蔵庫:庫内の温度を測れること

主な管理運営基準

  • ねずみ昆虫等の駆除を記録
  • 井戸水等の検査
  • 井戸水等の殺菌装置の点検
  • 食品取扱者の検便の実施

食品衛生責任者の設置

飲食店の営業をするにあたって、食品衛生責任者を置かなければなりません。

食品衛生責任者とは栄養士、調理師、製菓衛生師などの資格をもつ事が条件です。

また、これらの資格が無い場合でも、知事が指定する講習を受けることで食品衛生責任者として認められます。

 

手続き

飲食店営業許可申請

許可申請手数料 16000円

必要書類

  1. 営業許可申請書
  2. 営業設備の構造を記載した図面
  3. 水道水以外の場合、最近6ヶ月以内に行った使用水の試験成績書
  4. 申請者が法人の場合 定款
  5. 食品衛生責任者設置届出書
  6. 静岡県農林漁家民宿確認書写し

営業許可の有効期間は5年ですので、5年毎に更新の必要があります。

 

3,都市計画法

農家民宿をしようとする宅地が都市計画法上のどの区域に当たるかを確認します。市街化調整区域に指定されている場合、ホテルまたは旅館を開業することができません。

農林漁業者が住宅として使っている建物の一部を利用して農家民宿を開業しようとする場合、都市計画法の許可を受ける必要があります。

開業予定地が市街化調整区域である場合は市や町の開発許可担当窓口や土木事務所に相談しましょう。

 

 

 

4,消防法

万一の火災発生に備えて、消防用設備の設置や宿泊客の避難設備、防炎管理体制などの基準を定めています。

簡易宿所への用途変更にあたって、建物の増改築を行わない場合でも、消防本部の確認が必要となります。

主な設備基準

①民宿用面積が50㎡以下で、民宿用面積が住宅用面積より小さい場合
⇒【一般住宅扱い】となるので

  • 住宅用火災警報器の設置のみ。

②民宿用面積が50㎡以下で、民宿用面積が住宅用面積より大きい場合
⇒【民宿】となるので

  • 防火対象物使用開始届出書の提出
  • 防炎物品の使用(カーテン、じゅうたんなど)
  • 誘導灯・誘導標識

③民宿用面積が50㎡以上の場合

全体の面積に関わらず

  1. 防火対象物使用開始届出書の提出
  2. 防炎物品の使用(カーテン、じゅうたんなど)
  3. 誘導灯・誘導標識

面積が150㎡以上の場合:上記123に加えて4.消火器

建物の床面積が300㎡以上の場合、上記1234に加えて5.自動火災報知設備

消防本部にも事前相談が必要です。民宿開業チェックシート、建物配置図、平面図、位置図を持参します。

 

 

5,建築基準法

民宿は建築基準法上「旅館」と扱われるのが原則ですが、次の3つを全て満たす場合には旅館に該当せず、住宅として扱われます。

  1. 住宅の一部を農家民宿として利用すること
  2. 客室の床面積の合計が33㎡未満であること
  3. 各客室から直接外部に避難できること

建築担当課、土木事務所に事前相談しましょう。客室の延床面積の合計が33㎡未満で、建築確認申請が必要ではない場合でも避難上支障がないかどうか確認する必要があります。

民宿開業チェックシート、建物配置図、平面図、位置図を持参します。

 

6,その他

  • 水質汚濁防止法
  • 浄化槽法

下水道ではない場合、これらの規制も関係してきます。保健所に相談しましょう。

 

手続まとめ

かなり色々なところに行く必要があって大変ですが、おおまかに手続をまとめると下記のようになります。

  1. 民宿を営業するには簡易宿所の許可が必要⇒保健所
  2. 食事の提供を行う場合飲食店営業許可が必要⇒保健所
  3. 家屋を新築または改築する場合建築確認申請が必要⇒土木事務所
  4. 旅館業営業の許可のために消防法令適合通知が必要になる⇒消防本部
  5. 建物の場所によっては農家民宿を営業できないので確認する必要がある⇒市町村役場

 

農家民宿の許可がおりたら

たくさんの書類申請お疲れ様でした。許可がおりたら、あなたも民宿経営者です。

ここまで大変でしたが、本番はこれからです。

まだまだやらなければならないことはありますよ。

料金の設定、料理のメニュー、安全管理、外国人の受け入れ方、ご近所との連携などなど

宿泊者へのおもてなしの心を忘れず、また、あなたの開業したかった理由も忘れず、どうか大成功していただきたいと思います。

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この記事を書いた人

夫婦で行政書士事務所を運営しています。
3児の父です。
家族を連れて、日本各地の民泊に泊まりに行きたいです。

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